「新規感染者増加は検査数が増えたから」という説明は正しいのか?

このところ、東京のみならず地方でも新規感染者の増加が著しく、各地でこれまでの最高記録を更新しています。これに対し、「新規感染者数が増えたのは検査数が増えたから」という説明がなされているのをたびたび耳にしてきました。最近でこそ、こうした説明はきかれなくなってきていますが、果たしてこの説明は正しかったのかどうか検証してみたいと思います。

毎日発表される新規感染者数ですが、東京都の場合には、その日の午前9時の時点で、それ以前の24時間に関係機関から送られたきた新規感染者の報告書を集計して発表されており、中身としては発表当日の前3日間ほどの間に行われた検査結果に基づくものが多いと言われています。要するにある特定の一日の検査結果を表すものではないのです。にもかかわらず、時々「本日は4500件ほど検査しておりますので」と新規感染者数が多かった日にコメントするのはおかしいと言わざるをえません。

もう少し由来のはっきりしたデータを探すと同じ東京都の新型コロナウイルス対策のページの中に、毎日の検査数(PCRと抗原検査)とそれぞれの陽性者数を示した欄がありましたので、そのデータを使って検証してみます。ここではPCR検査数のみを対象にします。

図を二つ示します。上が6月1日から7月21日までの毎日のPCR検査数と陽性者数(新規感染者数)、下が同じ期間の陽性者数とPCR検査の要請率です。毎日のデータなので、検査数が少なくなる土日は検査数も陽性者数もガタンと少なくなります。

どちらも紺色の棒グラフで示した右肩上がりの陽性者数(新規感染者数)に沿うように赤い折れ線が右肩あがりになっているように見えます。つまり、検査数が増えたから、また陽性率が増えたから陽性者が増えているということになります。ここで、もう少し別な観点からこの間の推移を見てみましょう。

上の3つのグラフは、陽性者数、検査数、陽性率それれぞれの7日間移動平均をプロットしたものです。いずれも右肩上がりですが、6月はじめと7月21日頃を比べると数値的にどのくらい変化したかをみると以下のようになります。

陽性者数は約10倍、検査数は2-3倍、陽性率は約3.5倍です。陽性者数=PCR検査数 X 陽性率 ですから、陽性者が6月はじめから7月21日頃にかけて10倍になったのは、検査数が3倍になり、陽性率が3.5倍になったからと考えれば因果関係を説明できると思います。陽性者数が増加したのでは理由が二つあって、ひとつは検査数が増えたからであり、もうひとつは陽性率が上がったからというのが正しい説明です。

加えてPCR検査数と陽性率の関係は、一般的には相反するはずです。検査数の増加に伴い、以前では検査できなかった人たちも検査されるようになってきており、本来であれば、陽性率は下がったしかるべきなのです。しかし現実には、6月はじめに2%程度であった陽性率が今や7%付近になっており、これはとりもなおざす市中感染が広がっていることを明確に示していると思います。

結論として、「陽性者(新規感染者)が増えているのは、検査数の増加と陽性率の増加の両方によるもので、本来感染が拡大していなければ検査数の増加に伴い低下するはずの陽性率が連続して増加しているのは、市中感染が継続的に拡大している証である」ということになります。

最後に、統計の罠についてひとつご紹介します。

上の二つの図は、左が陽性者数と検査数の散布図、右が陽性者数と陽性率の散布図です。この両者で相関係数を計算すると左の方が相関係数が高くなり、見た目も相関がよりありそうに見えます。実際のところ、陽性者数、検査数、陽性率とも右肩上がりで上昇しており、これら3つの数値が相互に関連しているのですが、そうしたことを考慮せずに相関をとってしまうと検査数の増加の方が陽性者の増加をよりよく説明できるなどという誤った結論になりがちなので注意する必要があります。赤い点は最近の10日間のデータです。一目でこれらのデータの位置が、集団全体の中で特異的な位置にあることが理解されると思います。特に陽性率に関して10日間すべてが高いというのは気になるところです。