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かんとこうブログ

2020.05.26

フェルメールのアトリエ-その2

 

昨日は、フェルメールのパレットのイメージとそこに使用されている顔料の名前だけご紹介しました。今日はその顔料についての説明から続けます。下の表は若干に説明を加えた顔料の表です。とても大きい表なので表示すると小さすぎて読みにくくなりました。

 この表を眺めて思うのは、やはり17世紀の顔(染)料としては、天然物からとった材料(鉱物、植物、動物など)が中心であり、工業的に生産されたものは一部に過ぎないということです。17世紀はオランダの世紀とも呼ばれるほどオランダが世界に進出し隆盛を誇った時代でした。前回ご紹介したウルトラマリンはアフガニスタンから、インディゴはインドからというようにオランダの海運を使って遠くのアジアからも、材料を集めていたものと想像されます。

 インドと言えば、この表には入っていませんが、インディアン・イエローも映画の中に登場します。「真珠の首飾りの女」の発注者であるパトロンが、この絵のお披露目の時に、絵の中の黄色い上着に使った顔料をインディアン・イエローであると看破し、「牛の尿で描いたのか?」とフェルメールに問いかけるシーンがありました。

 このインディアン・イエローとは、インドのベンガル地方において、マンゴーの葉だけを飼料として与えた牛の尿を集めて蒸発させることで美しい黄色のユーキサンチン酸マグネシウム塩を取り出す方法により製造していたそうです。しかし、こうした黄色い尿を出す牛は極度な栄養失調状態にあり、動物虐待が過ぎるということから20世紀初めに禁止されています。


真珠の首飾りの女 そごう美術館 「フェルメール光の王国展2018」の複製画より

 そしてインドのベンガル地方と言えば、弁柄(べんがら)の語源としても有名です。フェルメールの時代にも、弁柄は使用されていました。色が鮮やかで耐候性もよい顔料であり使いやすかったと思われます。その弁柄ですが、表の記述に「イエロー・オーカーを加熱し、水分を蒸発させて作る。」と書いてあります。この意味は化学式を見てもらうとわかります。イエロー・オーカーは、化学式で書くとFeOOHと書きますが、Fe2O3・H2Oとも書くことができます。実際、イエロー・オーカーは耐熱性が弱く、高温の焼付を行うPCM塗料での使用が制限されているほどです。この耐熱性の弱さを補う目的で耐熱性オーカーというものが市販されています。

 また焼きアンバーや鉛白の説明に、亜麻仁油に対するドライヤーとしての効果が説明されています。当時の人々が意識して使用したかどうかは別にして、こうした顔料を使うと絵の具の乾燥が速くなることは知っていたものと思われます。

 フェルメールの時代には、鮮やかで耐久性のある色材を求めて、様々な天然物が絵具に使われていました。また、有害性の高いものもたくさん使用されていました。現在ではその多くがより安全性の高い工業製品に置き換わり利便性を享受することができます。より良い色材を求めて苦闘した先人たちのあくなき探求心に感謝したいと思います。

 本項の作成にあたり、元関西ペイントの中畑顕雅氏より、資料の提供とアドバイスをいただきました。特に、教えていただいた下記の二つのサイトから、多くを引用させていただいています。

フェルメールのパレット 

http://www.essentialvermeer.com/palette/palette_vermeer'_palette.html

「絵画組成」の絵の具歴史

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