2050年への課題

昨年菅首相が発表した2050年までに二酸化炭素(以下CO2)の実質排出量をゼロにするという公約について、塗料業界としての課題を考えてみたいと思います。CO2の排出を削減すると言えば、再生可能発電や省エネルギーを思い浮かべる人も多いと思いますが、そうした総体的な話ではなく、塗料業界自らが主体となって解決しなければならない固有の課題について考えてみたいというのが今日のテーマです。

まずは現時点で塗料と塗装由来のCO2排出量がどのくらいあるのか推測したいと思います。ここでは、エネルギー起源以外の、純粋に塗料そのものに由来するCO2を考えます。塗料由来の排出源となりうるのは、塗料の製造や塗装において排出されるVOCと塗膜となった後の劣化や分解する有機物にその可能性があります。後者の塗膜となってからの劣化や分解に関しては、燃焼されないかぎり短期間にCO2にまで酸化・分解されるとは思えませんので、ひとまず計算から除外し、とりあえずVOCについて考えることにします。VOCはオゾン層などで酸化・分解され、最終的にはCO2になるようですので、排出源として考慮する必要があるのではないかと思います。

 さて、塗料製造や塗装時に発生するVOCは日塗工が毎年集計し発行している小冊子に数値が掲載されています。最新の数値は2018年のものですが、塗料製造時に2,236トン、塗装時に242,100トンとなっていますが、この数字には、塗装時に排出するが捕獲・燃焼などにより処理される分は含まれていません。その分も合わせると合計では296,900トンになります。

塗料から排出されるVOCについては、その種類も細かく推定されていますので、それをもとに計算すると、塗装時に排出されたVOCがすべてCO2にまで酸化・分解されたとしたら、その量は919,800トンにもなります。

 一方で、日本全体で排出される地球温暖化ガスは、2018年度においてCO2換算で11億3800万トンとなっています。このうちエネルギー起源のCO2が9割近くを占めています。それ以外では、ごみの焼却などを起源とする非エネルギー起源CO2、農業土壌の発酵などを起源とするメタンや一酸化二窒素(N2O)、フロンガスのHFCが温室効果ガスとして集計されています。こうしたガスも当然ながら削減対策の対象となっています。




https://www.jccca.org/chart/chart04_04.html

非エネルギー起源のCO2量は8,538万トンです。この中に塗料からのVOCが含まれているのかどうか確認できませんでしたが、先ほど計算した約92万トンという数字は、非エネルギー起源のCO2量の1%を超える量であり、決して無視してよい数字には見えません。

 すなわち、2050年を見据えるならば、これまで大気汚染問題としてとらえてきたVOCを、CO2排出問題としても捉える必要があるのではないかということになります。

塗料業界として考えなければならない点がまだあります。VOCほどインパクトは大きくはないでしょうが、それは樹脂や添加剤など塗料に使用される化石原料削減です。塗料では、アルキド樹脂などで、植物由来の油が使用されていますが、それ以外にはほとんどカーボン・ニュートラルな有機物原料が使用されていません。

CO2を直接樹脂原料として使用することについては、例えば旭化成がポリカーボネート樹脂を工業的に生産したり、ポリウレタン樹脂やポリラクトン製造法が開発されたりしていますが、塗料に実際に使用するのは難しいようです。今後は、原料としての化石原料をできるだけ減らすと同時に積極的にCO2を原料として使用する工夫に挑戦する必要があります。

塗料の製造や塗装における省エネも塗料業界の責任範疇になるでしょう。ユーザーと協力しながら、CO2 削減に取り組むことは、これからさらに重要性を増すのではないかと思われます。