日本人にとって特別な色・・・赤の物語  その2

昨日は世界の赤についてご紹介しました。今日は赤の歴史についてご紹介します。

 歴史的に見ると赤という色は有彩色の中でも最も早く認識された色のようです。以前「海のあお、空のあを」で一度ご紹介しているのですが、大日精化株式会社のサイトに色の名前がどのように生まれてきたかということが書かれています。それによると、文化人類学者のブレント・バーリンと言語学者のポール・ケイは、日本語を含む 98 の言語について調べて、ある基準を満たす基本色彩語という 11 の色を表わす言葉(白、黒、緑、黄、青、茶、紫、桃 色、橙、灰色)とその発生の過程を表わしました。下の図をみてください。色彩語が生まれてきた過程が書かれています。明暗を表わす「白」と「黒」が生まれ、有彩色の代表として「赤」が生まれ、その後 次第に分化して、様々な色彩語が生まれてきたということに関しては世界共通のようです。

11 の基本色彩語とその進化の過程 大日精化株式会社のホームページより引用 https://www.daicolor.co.jp/rd/color/directory/index.html

赤の語源については、語源由来大全に以下のような記述があります。

「赤」は、「明るい」を意味する「明か(あか)」と同源であり、明るいことに由来する言葉。古くは、「赤」は複合語として用いられるのみで、単独で使われる場合は 「朱(あけ)」が用いられた。

赤は「明るい」に由来し、古くから色として認識されてきました。こうした赤い色とそれを作り出した赤顔料の歴史について、日本を中心としてたどっていくことにしましょう。まずは代表的な二つの赤顔料のご紹介をしていきます。最初は赤色酸化鉄、ベンガラ(弁柄)です。

ベンガラは、天然には赤鉄鉱として産出する酸化鉄(α-Fe2O3)であり、その名前の由来については、以下のように説明されています。「17世紀の元禄時代はオランダ東インド会社の交易船が渡来し、舶来品を日本にもたらした時代であり、インドのベンガル湾経由で輸入した舶来品を総称して「ベンガラ」と呼んでいました。織物や糸の場合には「弁柄縞」、や「弁柄糸」と書き、黄土を焼いて作る赤色顔料は「紅殻」と書いて区別していたようです。現在ではいずれの場合でも「弁柄」または「ベンガラ」と表記し、通常は酸化鉄顔料粉を指すようになっているとのことです。」(機能性酸化鉄粉とその応用  堀石七生著、協力 戸田工業株式会社 米田出版 2006年初版)

このベンガラは、人類が最初に使った赤色の無機顔料です。きわめて古い時代から人々は酸化鉄を使っていたようであり、歴史的な主なできごとを表にすると以下のようになります。

利用の痕跡はさらにこれよりも古くからあるというからその古さには驚かされます。この中でラスコーやアルタミラ洞窟、また高松塚古墳などの壁画は、歴史の教科書などにも記載されており、御存知の方も多いと思います。

高松塚古墳壁画 http://japantemple.com/2015/08/21/post-545/

こうしたベンガラは基本的には天然物を加工したものと考えられていますが、後世は人工的に生産されるようになりました。日本における商業的な酸化鉄顔料の製造は17世紀ころの「吹屋弁柄」(現岡山県高梁市)が最初とされています。この吹屋弁柄は、大量生産が可能でかつ鮮やかな赤色であったため昭和の中期まで全国各地に販売されていましたが、鉱業の衰退や公害問題から1970年に製造が中止となりました。


栄華を誇った吹屋弁柄の生産地吹屋の現在とベンガラが染みついた生産用具
(2013年撮影:元関西ペイント 中畑顕雅氏提供)

余談ですが、この吹屋弁柄は、たいそう鮮やかな赤色であり、現在のベンガラよりも赤かったと言われており、その謎が岡山大学の高田先生によって究明され、製造条件の調整とアルミニウムの微量添加により吹屋弁柄の鮮やかさが復元できたという報告があります。(出典は後述)

ベンガラそのものは、現在でも塗料には必要不可欠な顔料として重用されていますが、その製造は吹屋弁柄からは全面的に変わっており、湿式プロセスを基本に、乾式プロセス、水熱プロセスを組み合わせる環境に配慮した方法で製造されています。

こうした製造方法・条件は酸化鉄顔料にとって非常に重要です。なぜなら酸化鉄顔料は、その製造方法・条件によって、また言い換えると結晶構造や粒子の形状や大きさによって色が変化し、黄色~赤色~黒色の幅広い色相を呈するからです。結晶の状態と色の関係について例を示します。

ベンガラの色としては、赤、黄、黒があり、結晶構造(化学組成)や粒径によって色が変化することが理解されると思います。

赤いベンガラでは、粒子径を細かくしていくとより赤色が際立つようになりますが、それは粒子が小さい(薄い)場合には、赤色の補色である青色の光がほぼ完全に吸収される一方で、赤色の光はほとんど吸収されないのに対し、粒子が大きい(厚い)場合には、赤色の光も部分的に吸収されてしまうためと説明されています。さらに粒子を光の波長よりも小さくしていき、光の吸収や散乱を抑制することで透明性を付与することもできるようになっています。太古より使われ続けてきたベンガラはまさに赤を代表する顔料であり、今なお使われ続けています。

ベンガラに関する記述は、下記の資料から引用または参考にさせていただきました。ご紹介した以外にも、ベンガラに関する詳細が書かれていますので興味のある方は是非お読みください。

「ベンガラの歴史と材料科学的研究」岡山大学 大学院 教授 高田 潤 風土社「チルチンびと」(2003 年冬季号:No.23,84-85 ページ) 

http://www.achem.okayama-u.ac.jp/iml/theme/pdf/bengara.pdf

「化粧品用酸化鉄系顔料」内田浩昭、杉原則夫、色材協会誌 84,[10]、351-357(2011)(J-stageで全文ご覧いただけます)

「伝統顔料の赤に挑む」高田潤、浅岡裕史、現代化学 2005年10月、25-30

思いの他弁柄では紙面を使ってしまいました。この続きは明日にします。明日は不思議な「賢者の石=辰砂」からご紹介していきます。

なお明日は、経済産業省の確報の発表を掲載しますので、この続きは明後日に掲載をいたします。