二酸化チタンの光散乱について

 このところ、当ブログも新型コロナウイルス感染症に関する話題が多かったのですが、今日は3月31日に書いた「雪と白顔料」の続編を書きます。先般のブログには、二酸化チタンが白顔料としての究極ともいえる適性を備えていることを書きましたが、まだ白顔料としての二酸化チタンのすばらしさをまだ十分に説明しきれていないところがありました。今日はそれを書きたいと思います。コロナを忘れて、技術の世界を浮遊してみてください。

 現在生産されている二酸化チタンの種類を、その粒子径に注目し、その用途と対象とする光の波長領域を下図に示します。紫外線領域の光には小さな粒子径(10-50nm)のものが、可視光領域の光には中程度の粒子径(200-300nm)のものが、そして赤外線に対しては比較的大きな粒子径(1000nm-)のものが使用されていることがわかると思います。そして、どうやら粒子径と波長領域が連動しているようだと気が付いた人がいるかもしれません。そうです、この両者は密接な関係があるのです。


(出典:ナノサイズ酸化チタンについて 日本酸化チタン工業会 2008年11月27日)

 ナノサイズの二酸化チタンの代表的な用途は、日焼け防止の化粧品ですが、この用途には紫外線を吸収し透明であることが要求されます。中程度の大きさである顔料用二酸化チタンは、下地を隠蔽し白く見せることが要求されます。そしてより大きな二酸化チタンは、熱に変化しやすい赤外線を透過・吸収させないことが要求されます。言い換えると、それぞれの要求に応えるために最適な粒子径が選ばれているのです。

 では、最適な粒子径とは何でしょうか?それにはそれぞれの波長に対する光の散乱が密接に関連しています。酸化チタンの粒子径と散乱の関係についてイメージを下図に示します。この図は、散乱が反射や透過とは全く違う現象であるということと、Xというパラメーターにつれて散乱の様子が大きく変化することを表わしています。ここでXは、散乱理論では粒径パラメーターと呼ばれており、X=πD/λ(ここでD:粒子径、λ:光の波長)で定義されています。つまり光の波長と粒子の外周の長さの比率です。もっと単純化すれば光の波長と粒子径の比率と言ってもよいでしょう。散乱がなぜおきるのかということを説明するのは簡単でありません。電磁波である光の電場の振動が、顔料粒子の分子の電場が影響しあうといえばイメージしてもらえるでしょうか?


(出典: http://www.iup.uni-bremen.de/~luca/?download=03_LL_VO.pdf)

 二酸化チタンは、こうした粒子径ごとの散乱特性を考慮し、対象となる光の波長領域において最大限に要求される性能を発揮できるように粒子径が調整されているということをぜひ覚えておいてほしいと思います。実はこの光の散乱については、もう少し詳しく説明しなければならないのですが、それは次の機会に譲ることにして、顔料用二酸化チタンについてもう少し話を進めることにします。それはせっかくこうして最適の粒子径で造られている二酸化チタンをうまく使いこなしてもらいたいからです。

 二酸化チタン顔料の配合量と隠蔽力について見てみます。グラフの横軸はPVC(=顔料体積濃度)です。この両者の関係は、顔料の重量が樹脂の重量と同じになる(PVC=25)程度までは、顔料を増やすにつれ隠ぺい力が増加しますが、それ以上に顔料を増やしていくとこの法則から外れてしまいます。これは、あまり顔料の量が多くなると理想的な光の散乱状態が得られなくなるからです。

 二酸化チタンが密集しすぎると、個々の粒子としての光学的挙動ではなく、粒子の集合体もしくは凝集体があたかもひとつの大きな粒子であるような挙動を呈するためと考えられています。顔料の量が多くても個々の粒子としての理想的な散乱状態を保持するために、二酸化チタン粒子が過度に接近しないよう小さな体質顔料や中空微粒子を混ぜて共分散したり、分子鎖の長い顔料分散剤を使用したりする試みがなされています。塗料の設計をするときには、こうした二酸化チタンの特性をよく理解した上で、その散乱特性を最大限に引きだしてほしいと思っています。

 今回の話は、白顔料用途を中心に二酸化チタンの光の散乱についてでした。光の散乱の話はまだ続きがあります。また近いうちに書きますので楽しみにお待ちください。

 本項を書くにあたり、元関西ペイントの中畑顕雅氏より資料の提供と内容についてのアドバイスをいただきました。